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誰も居ないとは言えど、学内で名前で呼ばれるなんて思ってみなかった

「先生、何ですか?」

先生を強調してそう訪ねると、気づいたのか、少し落ち着いた様子で

「取り乱してすまなかった」

と謝った後

「一緒に帰ろう」

と言った

「・・・いいですけど」

別に構わないけれど、今の台詞はその前に謝った意味が全く無かったと思う

学校から出て、人通りの少ない道を聡広と歩く

「今日は車じゃないんだ?」

「いや、車は置いてきた」

あっさりそう返されて

「なんで?」

と思ったまま尋ね返す

「美希也が頑張ったから、折角だし遊びに連れ出そうかと思って。ずっと試験もあったし遊びに行けなかっただろ?」

それはデートしようってこと?

さっき俺の機嫌を損ねたから?

「・・・そうだね」

何だかんだ言って、二人きりの時間は無かったから、嬉しい気持ちは勿論ある

でも、何故か素直に喜べない

「じゃあ、どこに行こうか。そうだ、前に美希也と繁華街で会った時に言っていたパフェの店は?」

そう言えば、あの出来事も、もう随分前の話のようだ・・・

「そうだなー・・・暑いし、アイスがいいな。最近気に入ってるアイス屋さんがあるんだ。こっち」

そう言って、聡広の服を軽く摘んで足を止め、そのアイス屋がある道へと方向を変える

さりげなく手を伸ばしてみて、その手をつかむ前に引っ込めた

もし払われたら?

もし・・・

きっと立ち直れない。

そう思うから・・・

「先生は何味のアイスが好き?」

そう話題を振って笑いかける

ごめんね。臆病で






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