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ヘッドホンを耳に装着してひたすら教科書と図書室にある参考書を見比べノートに要点だけを書き出していく

こうしていると時間も忘れて打ち込める

この何も考えずにただ知識を詰め込む作業は嫌いじゃなかった

「おーい、美希也ー?」

目の前に突然自分の物ではない手が出てきてビックリして顔を上げる

いつの間に来たのか、楓と聡広が目の前に居た

「ビックリした。いつ来たの?」

ヘッドホンを外してそう尋ねると「今さっきだよ」と苦笑しながら返してくれた

「何回も呼んだのに気づかないんだもん。何の勉強してたの?」

「日本史。今回範囲も広いから得意科目だけど先に復習しておこうかなーって思って」

「へぇー、美希也って日本史得意なんだ?」

楓が興味津々だと言わんばかりに質問を重ねてくる

「暗記が得意なだけ。だから暗記の部分は何とかなるんだけど、応用が混じると手が出ない典型的なタイプなの」

ぐいーっと伸びをして時計を見る

まだ始めてから30分くらいしか経っていなかった

「さって、今日の目標は範囲まで全部暗記することだから邪魔しないでね?」

にこりと彼らに笑い掛けてヘッドホンを再びつける

ヘッドホンから流れているのはテンポが緩やかな洋曲ばかりだ

よく音楽を訊きながらは集中できないと言うが、音楽の雑音より周囲の雑音の方が耳障りな時もある

どうせなら自分の好きな世界で浸っていた方が効率もいいと集中したい時はヘッドホンで音楽を聴くようになった

だから楓と聡広がどんな風に自分を見て、何を話しているのかなんて知らない

知りたくないから逃げる

知って傷つくよりは、知らずにいたい。そう思うくらいには弱いんだ

耳に掛けていたヘッドホンを外して伸びをしてから立ち上がる

「あれ?日本史終わったの?」

すると楓がそう尋ねてきた

「んー、この参考書じゃちょっと物足りなくて違うヤツ探してこようと思って」

今まで使っていた本を見せると少し意外そうな顔をして「その本じゃ理解できなかったの?」と訊いてくる

「理解できなかった・・・って言うより、別に試験に出るような内容じゃない部分が知りたくなって調べようかと思って」

「ふーん・・・でも、試験に出ないなら今じゃなくてもいいんじゃない?試験まで時間も少ないしさ」

「そうだけど、途中で気になったままだと気持ち悪いんだよね。気になって他のことが手につかないよりは今調べて納得しておく方が効率的でしょう?」

そう言いくるめてさっさと本を取りに自習室の外へと出た

さっきは集中していたから気にならなかったが、外から自習室の中を見ると楓と聡広が密着しているように見える

自分と一緒に居るときより聡広は楽しそうな顔をしている気がして少し寂しかった

何であの隣にいるのは自分ではないのだろう?

どうして自分はココで見ていることしかできないのだろう?

全ては自分が作ってしまった溝だと気づいているだけに腹立たしかった






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