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賑やかな夕食の後、聡広とタキは頼子を手伝い夕食の後片付けを、美希也はゲームの用意をするため、楓は勉強をすると自室へと戻った。

圭介はそのどれにも着いていかず、暫く考えるようにリビングに居たが、意を決した様子で楓の部屋に行き扉をノックする

少し経ってから誰か確認する声がしたので、「ちょっと話がしたい」と圭介は簡単に用件を告げると部屋へと入るように促された

「で、話しって何?」

部屋に入って早々楓がそう圭介に訊いた

「『本当、羨ましいよね』か。羨ましいのは誰に対してなんだろうな?高里」

意地の悪い聞き方をしていると自分でも分かっていながらあえてそう圭介は楓に質問した

さっきの夕食の時に小さく呟いた楓のこの言葉がずっと引っかかっていたのだ

「勿論、沢田に決まってるだろ」

普段の楓とは思えないくらい低い声と乱暴な口調でそう吐き捨てられた

「目障りなんだよ。お前ら。本当に何で美希也と仲がいいのか分からない。性格だって全然似てないのに」

「そうでもないぜ?タキは正反対だけど、美希也と似ている部分はある。俺だって美希也と共通点くらいあるんだよ」

「お堅いお前と美希也が?」

あり得ないだろ?と笑う楓に

「堅いって思ってるのは高校に入ってからの俺のことを知らない奴らだけだよ。中学の時までと一緒にしないで貰いたいね」

「へぇ、変わったんだ?」

「変われたんだよ。美希也達のおかげでな」

少し前のことを思いだしながら言ったせいか自然と声も柔らかくなった

「むかつく。本当にむかつく。何でお前なの?どうして、美希也と仲がいいの?」

「美希也と友達になれたからだろうな。少なくとも、高里みたいに躊躇はしなかったよ」

躊躇という言葉に反応するように楓は

「お前に分かるわけがないっ!何年も離れてて殆ど知らなかった兄弟と会えた嬉しさ、どう接したらいいのか分からない戸惑い!話しかけても曖昧な返事しか返ってこない悔しさ!お前なんかに分かるわけがねぇよ!」

一気に感情を露に怒鳴った

「・・・確かに最初の方の美希也って今とはまるで別人だもんな・・・でも、そんなの高里の努力次第だったんじゃねぇの?それを俺達が邪魔だと言わんばかりに責められても困るんだよね」

淡々とそう返す

こちらも感情に流されたら、その途端に話は全く成り立たなくなる

「努力したよ。ゲームに誘ったり、一緒に遊びに行こうって誘ったり、好きな本や音楽は何かとかあらゆる限りの話題を探した。けど、全部悉く一言、二言で会話が成り立たないんだよ」

「・・・あり得そうだな」

確か、かなり前に兄弟は酷く構ってくるけど何を言ったらいいか分からないというようなことを漏らしていた

「でもね。最近まともに話してくれるようになったんだ」

「へぇ、よかったじゃん」

「それは沢田達のおかげなのか、それとも聡広先生のおかげなのかは分からないんだけどね」

少し驚いた。何故そこで高林の名前が出てくるのだろう?楓は美希也と高林の関係を知らないはずだ

「・・・何でそこで高林が出て来るんだよ?」

率直にそう聞いてみた

「沢田は知ってたんじゃない?ちょっと前から美希也と聡広先生が図書館でよく会っていたこと」

確かに知っていたので頷く。彼らが付き合い始める少し前から図書館でよく一緒に居た

「美希也が俺ともまともに話すようになったのって、聡広先生とその図書館で会うようになってからなんだよ」

泣きそうな顔でそういう楓に、楓は随分前から美希也と高林のことに気づいていたのだと気づいた

「何でお前らなんだよ。ねぇ、何で俺じゃないの?ずるいよ。みんな・・・本当にずるい。後から出てきたくせに」

ずっと会いたかった

ずっと見ていた

なのに、見てくれない

違う奴に微笑み掛ける

何で俺じゃないんだろう






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